「省エネ基準適合義務化」って何?住宅の省エネ化の話
今、国が一番力を入れている事業の一つに住宅の省エネ化というものがあります。
ニュースで耳にしたことはあるけど、具体的にどんな内容なのか分からないという人は多いのではないでしょうか。
2025年には「省エネ基準適合義務化」が予定されていますが、これによって私たちの住宅はどのように変わっていくのでしょうか。
今回は住宅の省エネ化に関する今後の動向について解説します。
省エネ実現に向けた動向と今後の取り組みについて
国の省エネ対策によって、私たちの住宅はどのように変わっていくのでしょうか。
まずは現時点で国土交通省から発表されている動向と今後の取り組みについて見てみましょう。
2021年8月発表の資料によれば、省エネ対策の今後の進め方について次のような目標が示されています。
2030年まで |
新築される住宅について、ZEH基準の省エネ性能が確保され、新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が導入されていること。 |
2050年まで |
ZEH基準の省エネ性能が確保され、導入が合理的な住宅において太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的になること。 |
2030年以降には省エネ性能が確保された住宅が広く一般的に普及するよう、今後さまざまな取り組みがなされていく予定です。
また、上記の省エネ対策強化を実現していくために、今後の具体的な取り組みとして主に次のような施策が予定されています。
2022年 |
支援・補助の拡充 |
2023年 |
フラット35の省エネ基準引き上げ |
2024年 |
住宅ローン控除の制度改正(一般的な住宅だと控除が適用されなくなる) |
2025年 |
省エネ基準適合義務化 |
ZEH住宅って何?
国土交通省の目指している指標の中で「ZEH基準」という言葉が出てきますが、そもそもZEHとはどのような住宅なのでしょうか。
ZEHは「net Zero Energy House(ネットゼロエネルギーハウス)」の頭文字をとった略語で、家庭で使用するエネルギーを太陽光発電などの自然エネルギーから全てまかなうことを目標にした住宅のことをいいます。
太陽光発電から全てのエネルギーをまかなうためには、家庭内の消費電力を減らす必要があります。しかし、エアコンを切って暑さや寒さを我慢しなければならないとなると快適に生活することができませんよね。
ZEH住宅では消費エネルギーの削減を実現するために建物の断熱性向上や設備全体の効率化を図り、最小限の電力でも快適に過ごせる住宅をめざしているのです。
ZEH住宅として認められる要件として、下記の4つの項目があります。
①強化外皮基準 ②一次エネルギー消費量20%削減 ③再生可能エネルギーの導入 ④ 創造エネルギー≧消費エネルギー |
2030年までにはZEH基準の建物が一般的に普及するよう、省エネ対策の取り組みが進められていくこととなります。
その中間目標として掲げられているのが、2025年の省エネ基準適合義務化なのです。
省エネ基準適合義務化とは?
省エネ法の歴史は意外と古く、オイルショックをきっかけに工場・輸送機関のエネルギー効率化を目的として1979年に制定されたのがはじまりです。
その後、住宅も含めたあらゆる建築物における省エネ実施の必要性が叫ばれるようになり、2014年に制定されたエネルギー基本計画の中で「2020年までに省エネ基準適合を義務化する」と、初めて義務化について具体的な目標が打ち出されました。
しかしながら2014年の基本計画制定以降、省エネ義務化の法改正が何度か見送られた経緯があります。
見送られた理由として下記のものがありました。
・義務化によって住宅市場が混乱するおそれがある ・省エネによって光熱費が削減できても全ての設備投資費用を回収できるまでに長期間かかってしまう |
いきなり全ての建物に対して義務を課すというのは現実的ではなかったため、まずは大型建築物の基準適合義務化や住宅における省エネ内容の届出の手続きを課すなどして省エネ基準適合の完全義務化に向けて徐々に進められてきました。
完全義務化に向けて何が変わる?
国としては省エネ基準適合義務化に向けて紆余曲折ありましたが、2022年4月の閣議決定、6月の参院本会議を経て法改正が可決されました。
これによって、2025年の基準適合化は正式に決定したこととなります。
今後の改正に向けて、私たち消費者はどのような影響を受けることになるのでしょうか。
今後、変わっていくことについて考えてみましょう。
■建物に求められる性能の基準が変わる
省エネ基準適合の義務化によって、建物に求められる性能の基準がこれまでよりも厳しくなります。
・外皮の耐熱性能(住宅の外壁や窓・サッシ等の断熱性能を評価する)
・一次エネルギー消費量(住宅設備の電力消費量や使用効率の評価、また太陽光発電や熱利用といった創エネの評価)
■義務化により建築に必要な手続きが変わる
住宅を建築する際、現行法では省エネ基準の届出を行えば問題ありませんでした。
義務化されることによって、建物が省エネ基準に適合していることを特定行政庁から証明してもらう手続き(適合判定)が追加されることとなります。
■建築コストがアップするかもしれない
省エネ基準適合義務化によって受ける影響は、建物構造や地域によって異なります。
改正前よりも基準レベルが変わらないケースは室内断熱の機能向上のみで足りる場合もあるため大きなコストアップにはなりません。
しかし改正によって基準レベルが厳しくなるケースにおいては、影響を大きく受けてしまうことも考えられます。
■建物自体の資産価値があがる
省エネ基準適合義務化によって手続きの煩雑化やコストアップというデメリットがある一方で、建物自体の資産価値が上がるというメリットがあります。
断熱性が向上することで結露しにくくなり、建物の耐久年数が上がる効果も期待できます。
将来売却する際の査定が相対的に高くなったり、あるいは金融機関からの担保評価で有利となる可能性があります。
■フラット35の省エネ基準が変わる(2022年10月~)
住宅金融支援機構が融資する長期固定金利の住宅ローン「フラット35S」の基準が見直される動きがあります。
全ての住宅で利用できる「フラット35」のほか、一定の条件を満たせば金利条件が優遇される「フラット35S(Aプラン)」「フラット35S(Bプラン)」という商品があります。
2022年10月の見直しにより、Aプラン・Bプランともに適用条件が厳しくなります。
また、同じタイミングで「フラット35S ZEH」という新しい商品が創設されます。
フラット35S(Aプラン) |
当初10年間は基準金利より0.25%引き下げられる |
フラット35S(Bプラン) |
当初5年間は基準金利より0.25%引き下げられる |
フラット35S(ZEH) |
当初5年間は基準金利より0.5%、6~10年目は0.25%引き下げられる |
なお、金利引き下げがない通常の「フラット35」においても2023年度から基準が厳しくなるという点も注意が必要です。
フラット基準 変更点まとめ(新築住宅)
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現行 |
変更後 |
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フラット35 |
断熱等性能等級2相当以上 |
断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上 |
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Aプラン |
省エネ性 |
一次エネルギー消費量等級5以上 |
断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上 |
耐震性 |
耐震等級3 |
免震建造物 |
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Bプラン |
省エネ性 |
一次エネルギー消費量等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上 |
断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上 |
耐震性 |
・耐震等級3 |
耐震等級2以上 |
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ZEH |
なし |
ZEH基準に適合している |
住宅省エネ化は環境保全のために必要な施策
地球温暖化などの環境問題が叫ばれるようになって久しいですが、日常的にエネルギーを使用している住宅に対して厳しい規制はありませんでした。
省エネ基準適合義務化やZEHの普及は環境保全への大きな一歩になることでしょう。
私たち住宅消費者にとっては手続きの煩雑化やコストアップといったデメリットがある一方で、安い光熱費で快適な居住空間に住めるというメリットがあります。
また、助成金創設や金利優遇といった制度拡充が行われていくことにも期待できます。
これから住宅を購入される方は、省エネ住宅について一度検討されてみてはいかがでしょうか。